メキシコオオカミ再導入難航
Kathy Khoury (1998.11.30)アリゾナ州アルパイン(要旨)

アルパインのホワイト・マウンテイン・タウンは、松が並ぶ丘陵にかこまれた山間の草地が広がる平和な里であるが、今年3月から始められたメキシコオオカミの放獣をめぐってトラブルが起きている。

合衆国南西部からオオカミがほとんど見られなくなったのは、1950年代からである。彼らは家畜の敵として連邦政府と牧場経営者から追われたのである。最後に残った野生のメキシコ灰色オオカミは、1970年、アルパインの近くで撃ち殺された。メキシコ灰色オオカミは、遺伝学的にユニークであり、絶滅の危機にさらされている。このオオカミの再生計画が、US Fish and Wildlife ServiceとInterior Secretary らによって進められており、タクソンではそのために、150頭のオオカミが飼育されている。その中の11頭が、準備期間を経たのち、今年3月に放されエルクなどを補食して子オオカミもできたことが、認められた。ところが、これまでに、母オオカミを含む5頭が撃ち殺され、子オオカミも死んだと見られる。生き残ったなかの2頭も捕らえられて飼育されている。

Endangered Species Act(絶滅危惧種を保護する法令)によれば、絶滅の危機にあるオオカミを殺すことは、人命救助の目的以外には許されない。(ただし、牧場経営者が、私有地内で家畜を襲うオオカミを殺すことは、例外的に許される。)法令違反の場合、10万ドルまでの罰金及び1年までの禁固刑に処される。殺された5頭のうち、最初の1頭を撃った犯人は自首し、オオカミが犬を襲ったために殺したと主張して放免された。環境保全主義者たちは、Fish and Wildlife Service による、この寛大な処置が、それに続く襲撃を容易にしたと反発している。連続的な襲撃は組織的なものであるとの疑いもあり、連邦当局が調査しているが、犯人はまだ見つかっていない。

オオカミ放獣地としては、当初アパッチ国立山林のなかの人里から遠い場所が予定されていたが、その後、牧場などから遠くない場所が選ばれ、牧場での作業に使う犬を目の前で殺されて、計画に批判的になった人にS.Luce氏がいる。同氏に対しては、Defender of Wildlife が150ドルを賠償金として支払ったが、氏によれば、代替犬を入手するには5000ドルが必要であるという。
オオカミ以外にも絶滅の危機にある loach minnow (ハエの一種の小魚)が生息する流れの近くで家畜の放牧は許可されなくなるなど、牧場経営にさまざまな規制がかけられ、経営を断念するものもでている。

こうした問題がある一方では、International Wolf Center の Bill Route 氏のように、オオカミと人との共存は可能であると考える人々もいる。連邦当局もオオカミ再生計画を後退させることは考えていない。この12月から来年3月までの間に、新たに10頭から15頭を放す計画であり、最終的にはアリゾナとニュウ・メキシコとの州境に沿うアパッチ・アンド・ヒラ国立山林地区に100頭以上のオオカミが生息できるようになることが目標とされている。