WTO  
カンクンWTO閣僚会議報告(その2)
2003年9月

2.南北対立の2つの議題

 今回のカンクンでは、大きく言って「農業」と「投資」という2つの議題をめぐって南北が対立した。
 WTOでの「農業」とは、主として米国とEUが、巨額の政府の農業補助金を支出して、安い農産物を輸出しているという問題を言う。農業に依存している途上国では、この補助金漬けの安い農産物が入ってきて、農業が立ち行かなくなっている。当然のことながら、途上国側は、米・EUに対して「補助金を廃止せよ」と要求していた。
 また、「投資」とは、多国籍企業の投資を阻む規制の緩和を多国間協定で決めようという投資の自由化を言う。WTOでは、この「投資」問題は、「競争」「政府調達の透明性」「貿易の簡素化」を加え、一括して「シンガポール項目」と呼ばれる。当然のことながら、自国の工業化を図ろうとする途上国はこれに激しく反対してきた。
 上記の2つの議題についての南北対立の根源は、2001年11月、カタールのドーハで開かれた第4回閣僚会議の「宣言」に遡る。ドーハ宣言では、先進国側は、農産物の補助金を「段階的に撤廃する」ことを認めた。ただし、その撤廃の時期など具体的な記述はなかった。そして、米国のゼーリック通商代表などは、会議後の記者会見で、「段階的に」とは「100年の間にということだ」などといった暴言を吐いた。
 一方、ドーハでは、先進国側は、農産物補助金でのこの"譲歩"を取り引き材料にして、新しい「投資」など「シンガポール項目」について「交渉に入ること」ことを閣僚宣言に盛り込ませることの成功した。ただし、交渉に入るには、「明確な合意を必要」とするという条件が付いた。
 ドーハ以後、この2つの問題について、ジュネーブのWTO本部での2年近い交渉では全く進展がないまま、カンクン閣僚会議を迎えた。

3.途上国政府を突き動かした農民の反乱

 この2年間、途上国の農業は、先進国の補助金漬けの安い農産物によって破産に追い込まれた。その結果、困窮化した農民のさまざまな反乱は、WTOを共通の敵として、国境を超えて、さらに大陸を超えて連帯していった。南米やアジアの土地なき農民たちは、たとえ土地占拠に成功しても、また農民協同組合を組織し、有機農業を行っても、それでもなお、アメリカから輸入される安い農産物には太刀打ちできない。彼らの目には、アメリカ政府の巨額の農業補助金と、WTOが立ちはだかって見える。
 またアフリカの砂糖、綿花など換金作物を生産している小農民、あういはとうもろこし、牛肉を生産している自給自足農業の極貧農民でさえ、世界市場の動向に翻弄されている。これら農民運動や小農民協同組合は、「ビア・カンペシーナ(農民の道)」と呼ばれる国際的な反WTOの農民運動に合流していった。
 カンクンでは、これら農民の反乱が、途上国政府を動かしているという事実をいくつも見ることができた。

(1)G21プラスの登場
 まず、ジュネーブの段階で、ブラジル、インド、中国、アルゼンチン、エジプト、南アフリカなど途上国の農業大国21カ国が、「先進国の農産物の補助金撤廃」と「食糧安保」を要求した声明を発表した。G21の声明には、具体的には、「戦略的農産物(SP)を例外」とすることと、先進国にだけ認められている特別セイフガード制度(SSM)を途上国にも認めよと記述されていた。
 カンクンでは、新たにこれにインドネシアとナイジェリアが加わって23ヶ国になり、「G21プラス」と呼ばれた。このG21プラスの代表はブラジルのAmorin外相であった。G21プラスは、米国、EUの分断策や脅迫にもかかわらず、最後まで、団結を貫いた。これら途上国政府を突き動かしたのは、農民の反乱であった。

(2)アフリカ4カ国の声明
 また、会議2日目、ベニン、ブルキナファソ、マリ、チャドというアフリカの最貧国4カ国が、米国に対して「綿花の補助金撤廃」を要求する声明を出した。4カ国は綿花の輸出に100%依存しており、米国の安い綿花の輸出攻勢によって窮乏化した。誰の目にも当然の要求であり、これが、ドーハの「貿易と知的所有権(TRIPs)協定と健康」問題と同様、カンクンでの交渉の突破口になるかも知れないと囁かれた。ドーハでは、アフリカのHIV/エイズ患者の救済が中心議題となり、ついに、TRIPs協定の見直しについての特別宣言が採択された、という経緯がある。
 ではなぜ4カ国声明が出たのか。それには、それぞれの国内で全国的規模で組織された綿花生産小農民協同組合が、この2年間、4カ国政府に対して、共同で要求し続けてきたという経緯があった。

 シアトル以来、米、ヨーロッパ各地で見られるネオ―リベラルなグローバリゼーションに抵抗する運動は、カンクンでは、それが、途上国の農民たちの手に移っていることを知った。この世界は、大地からゆれ始めている。