世界の底流  
ブッシュ大統領のエイズ支援のいかさま
2004年8月23日


2003年1月、ブッシュ大統領は年頭教書において、アフリカとカリブ海諸国のエイズ対策として向こう5年間に150億ドルを支出するというブッシュ・イニシアティブを打ち出した。このブッシュ・イニシアティブは、世界中から喝采を受けた。

そのため、ブッシュ大統領は「大統領エイズ救済緊急計画(PEPFAR)」を発足させ、同時に米国の製薬会社Eli Lillyの社長だったランダル・トビアスを大統領エイズ特別顧問に任命した。

2003年5月、ブッシュ大統領は、国務省でアフリカの大使と会見した際に、PEPFARの第1年度分として30億ドルを支出する法案に署名してみせた。さらに、2003年7月、ブッシュ大統領はアフリカ訪問の際にも、150億ドルのPEPFARについて再度言及した。

しかし、実際には、2004年度のPEPFAR向け第1次予算には、20億ドルしか計上していなかった。これは201,000人のエイズ患者を治療する計画である。この額は当初の予算からは10億ドルも足りない。この10億ドルというのは、最近のエイズ治療薬の値下がりを考えると、何10万人ものエイズ患者が治療の機会を失うことを意味している。

2003年6月のフランス、エビアンでのG8サミットにおいて、ブッシュ大統領は、ヨーロッパの首脳との非公式のディナーの席上で、ヨーロッパ側が国連の「世界マラリア・結核・エイズ基金(世界エイズ基金)」に10億ドルを拠出するならば、米国も同額を支出する、と述べた。

しかし、その直後の昨年7月、ブッシュは国連の世界基金への拠出のための予算として、2億ドルしか提案しなかった。国連の世界基金の担当者は、「みんなをバカにした」と怒った。同じく、米議会も怒り、総額5億4,700万ドルの予算を採択した。

今日では、ブッシュ・イニシアティブは、研究者、医師、活動家、保健関係者などエイズ治療にたずさわる人びとから厳しい批判を浴びている。

さきにバンコックで開かれた第15回国際エイズ会議において、がエイズ患者の救済事業を妨害している、と公然と非難された。

1) 米国のユニラテラルなエイズ援助
 米国は、国連のエイズ支援の活動をボイコットしている。国連は実務担当機関としての「世界基金」、その技術的なアドバイザーである世界保健機構(WHO)、その調整役である「国連HIV/AIDS(UNAIDS)」を設けているが、米国はこれに参加していない。そして、ブッシュ大統領は彼が恣意的に規定した15カ国に独自のルールでもって援助することになっている。
 ブッシュのPEPFARへの20億ドルの予算の中で、今年2月になって3億5,000万ドルがやっと支出された。この資金を受け取ったのは、NGOの「Save the Children」とハーバード大学、コロンビア大学である。対象国はアフリカ12カ国、カリブ海2カ国とベトナムであった。
 しかし、しかし、今年5月に発表されたCouncil on Foreign RelationsとMilbank Memorial Fundという独立の調査機関が出した報告書では、PEPFARは資金不足であり、さらに現地の公共保健制度を尊重していない、その結果、PEPFARのプログラムは目標を達成できないだろう、という否定的な評価がなされた。

2) アメリカ右翼のPro-Familyイデオロギーをエイズ治療の条件に
 国際機関と米国政府との間では、HIV感染予防に「コンドームの使用」が有効か否かという点で折り合いがついていない。
 トビアス顧問はベルリンで開かれた「HIV/AIDSグローバル・ビジネス連合」のディナーの席上で、「コンドームは有効でないという統計がある」として、米国のPEPFARではコンドームはハイ・リスク・グループにだけ配布される、と述べた。
 しかし、公共保健の専門家の意見では、「コンドームに依存したためにHIV感染者が増えたのではなく,政府のエイズ対策の無策が感染者の増加をもたらしたのだ」という。1990年代のウガンダでは、エイズ対策としてABCキャンペーンが行われた。AとはAbstain、性交を控える、BとはBe Faithful、一人に限る、CとはUse Condom、コンドームを使う、であった。トビアス顧問はこのうちのAだけを成功の鍵として、他のアフリカのモデルとしている。しかし、「サイエンス・マガジン」4月30日号では、ウガンダではコンドームの使用が増加している、と書いてある。これがウガンダにおけるHIV感染の減少の理由である。
 ナミビアの例では、政府が若者にコンドームの使用を奨励したため、米国のPEPFARからの支援が減らされたり、中止になったりした。ナミビア政府は米国から「コンドームはハイ・リスク・グループのもに使用が許されるべき」だと言われた。それは、兵士、トラック運転手、セックス労働者、麻薬中毒者のことをを指す。多分、この規定は米国独特のもので、人口の22.5%もエイズが蔓延しているナミビアでは、すべての人がハイ・リスクになっている。
 また、米国はPEPFAR援助の条件として、中絶をレイプ、近親相姦、生命に危険のある病気の時の妊娠に限るとしている。ケニアやガーナではすでにこの米国の条件のために、多くの診療所が閉鎖された。
 PEPFARの2005年度予算では、コンドームを使用しないプログラムに、1億8,000万ドルを拠出する計画である。米国内でも、PEPFAR資金を得ることが出来る組織は、特定の宗教団体に限られる。

3) 米国はジェネリック薬の使用を拒否
 過去3年間、すでにアフリカとインドでは、医者がエイズ治療にブランド名をAnti-Retroviral Drugとよぶピルを処方してきた。これは1粒の中に3種のジェネリック薬を含む治療薬で、患者は1日に2回、このピルを飲めばよい。通常の製薬会社のエイズ薬では1日に6回飲まねばならない。
 途上国では、1日2錠のジェネリック薬は、HIV/AIDSプログラムは成功の原因となっている。すでにWHOはこのジェリック薬を認知している。国連の世界基金はWHOが認知したジェリック薬の購入を許可している。国境なき医師団によれば、アフリカでは、年間140−270ドルの費用で済むが、製薬会社の治療薬で、値引きされたものを使うと年間500ドルかかる。
 トビアス顧問は、ジェネリック薬の安全性を問題にしている。PEPFARではジェネリック薬の購入は禁止されている。
 アフリカの保健大臣たちの抗議を受けて、トビアスは5月、米国のFDAにジェネリック薬の検査をするように命じた。しかし、その検査が何年かかるのか全くわからない。
 以上述べたように、米国は国際機関のプログラムとは反対のエイズ対策をおこなっている。
 PEPFARは「エイズ患者を支援するどころか、むしろ有害である」とグローバル・エイズ同盟(GAA)のPaul Zeitz代表は批判した。