コラム  

「貧困根絶の国際キャンペーンのはじまり

 
『熊本新聞』「論壇」05年1月9日掲載 

                
 国連は、第60回総会がはじまる9月14〜16日、全加盟国の首脳が参加するサミットを開催する。これは、2000年9月のミレニアム・サミット以後5年間の進展状況を検討するために開かれるので俗に「ミレニアム+5サミット」とも呼ばれる。
 2000年のサミットは国連史上最大規模のサミットであった。ここでは、2015年までに、途上国の絶対的貧困者数を半分に減らす、幼児死亡率を半分に減らす、すべての子どもを学校に入れる、すべての人が安全な水を手に入れるようにするなど8項目を盛り込んだ「ミレニアム開発ゴール(MDG)」を全員一致で採択した。
 それから5年経った。そして、MDGが達成のデッドラインと決めた2015年までにはあと10年しかない。しかし、MDGは進展していないどころか、途上国をめぐる状況は一層悪くなっている。貧しいアフリカではHIV/エイズが蔓延し、国家の存続すら危うくなっている。その上、9.11以後は、「テロ撲滅」という口実で、アフガニスタン、イラクという2つの戦争が起こった。軍事力主義の潮流がはびこっている。そしてMDGが掲げた貧困根絶という地球的課題は脇に追いやられた感がある。
 昨年末、このような状況を変えようとする動きが起こり、今年はこの動きが国際政治の主流になるだろう。というのは、9月の国連ミレニアム+5サミット前の7月6〜8日、英国のエジンバラで先進8カ国の首脳会議(G8サミット)が開催される。すでに1月1日から英国はG8の議長国となった。ブレア首相は、今年4月に予定されている総選挙に忙殺されており、代わりに、ブレア首相の労働党内でのライバルであるブラウン蔵相が事実上サミット議長として動いている。
 ブラウン蔵相は昨年、ブレア内閣の内務相のスキャンダルとそれによる内閣改造の最中、米国を訪問し、ブッシュ大統領に「途上国の貧困を解決するための国際協調行動の必要性」を情熱的に説いた。新年早々には、アフリカ歴訪を計画している。英国内では、ブラウン蔵相は、OXFAMなどNGOの協力を得て、1月1日を期して貧困根絶のキャンペーンを開始した。7月のG8サミットでは、ブラウン蔵相のイニシアティブで、MDG達成のための新しい行動計画作成が大きな議題となるだろう。
 MDG達成のためには、昨年12月12日の『論壇』でも述べたように、まず第1に途上国の債務を帳消しにしなければならない。しかし、これは途上国政府が背負っている債務という重荷をなくすだけであって、膨大な貧困を解決するには不十分である。
 MDGを達成するために国際レベルでしなければならないことは、北から南に対して大量の資金を供与することである。それは政府開発援助(ODA)なのだが、先進国政府は財政逼迫を理由にむしろODAを減らす傾向にあり、今後それが好転する見込みはない。このODAを補完する資金源として、10年以上前からNGOが提案してきたものが、為替取引税(トビン税)である。しかし、これは米国の歴代政権がウオール街の圧力を受けて頑強に反対してきたため、長い間、国連ではタブーとなっていた。
 しかし、昨年9月、国連でフランスのシラク大統領とブラジルのルラ大統領が共同して、この為替取引税の導入を提唱したことから、状況は変わった。ヨーロッパ連合(EU)内では、為替取引税導入に賛成の国が増えてきた。途上国政府にも導入賛成派が増えている。
 9月の国連ミレニアム+5サミットに向けて、ヨーロッパでは、多分ブッシュ大統領のイラク戦争に参戦しているイタリアを除いては、ほとんどの国がブラウン蔵相に同調する
だろう。当然のことながら途上国がこれに同調する。そうすると、依然として、軍事力でテロを撲滅するというブッシュ大統領とそれに追従する日本だけが、MDGという崇高な人類的課題から取り残された存在になるだろう。そうならないためには、今からMDGについての一大キャンペーンをはじめなければならない。