English Translation of this Appeal (html file; PDF file; MS-Word file)
Chinese (Simplified) Translation of this Appeal (html file, MS-Word file)
Korean Translation of this Appeal (html file)


日本の憲法研究者の緊急共同アピール(2001年10月9日)

PDF版はこちら

 9月11日に発生した同時多発テロ攻撃を、わたしたち日本の憲法研究者は強い怒りをもって糾弾する。その犠牲となられた5千名をこえる人々とその遺族、関係者にたいして深い哀悼の意を表する。
 多数の乗員、乗客を道連れにして、おびただしい一般市民を殺傷するという今回のテロ攻撃は、かつて例を見ない悪辣な行為であり、人道にたいする国際犯罪として断固として糾弾されねばならない。
 しかし、私たちは、現在アメリカ・ブッシュ政権を中心に推し進められている数万の軍隊を動員しての武力行使、そして日本の小泉内閣によるそれへの加担の動きにたいして、強い危機感をもっている。
 アメリカ政府は「新しい事態」への対応であることを強調しているが、武力の行使は,いくら軍事施設に限定するとしても一般市民の犠牲者を避けることはできない。すでに500万人をこえるといわれる難民に加えて新たに数百万人の難民・餓死者を生みだすことは必至であり、またグローバル化した世界に張りめぐらされたテロリストのネットワークを解体するうえで無効であるだけでなく、対抗テロ誘発の危険性をたかめるものでもある。

1.<報復戦争は国際法違反>
 今なされている武力行使は、国際法に根拠をもたない違法な行為である。
1)国連憲章は、国際紛争の平和的手段による解決を義務付けており、また自衛権は、現に武力攻撃を受け又は受けつつある場合に限って、安全保障理事会が必要な措置をとるまでの間のみ行使することができるものとして限定されている。
2)今回の事件に対して9月12日に採択された安全保障理事会決議1368号は、「テロリストの攻撃に対するあらゆる必要な措置を講ずる用意があることを宣言する」もので、加盟国の自衛権を確認しただけにとどまっており、それは特定の集団や国家に対するいかなる武力行使をも授権・要請・容認したものではない。
3)さらにまた、1970年の国連総会は、アメリカ合衆国をふくむ全会一致で決議2625号「友好関係原則宣言」を採択し、「武力行使を伴う復仇行為を慎む義務」を加盟国に課していたことも想起されるべきである。
 このような武力行使は、平和の実現をめざす国連憲章をはじめとした国際社会の長年の努力の成果をないがしろにし、21世紀の国際社会にあらたな不安を拡大するものである。

<テロ行為は国際犯罪として処罰すべき>
 このような不当にして違法な武力行使が、アメリカを先頭とする経済的軍事的に有力な諸国によって行なわれ続けるならば、それは暴力にたいする暴力の際限なき連鎖と暴力の拡大を生み出すだけである。
 今回のテロ行為に対処するには、直ちに武力行使をやめ、国際犯罪として証拠に基づき容疑者を特定し、国際社会の協力で身柄を確保し、人道にたいする罪として国際法廷による厳正な裁きに付すべきである。

2.<今回の米軍支援法案(いわゆるテロ対策支援法案)は自衛隊の参戦法である>
 法案は、米軍などの外国軍隊の軍事行動に補給・修理・整備・医療、武器弾薬人員の輸送などの「協力支援活動」を行うこととしている。しかし、武力行使はこのような活動なしに行うことはできないことからすれば、それは軍事行動の不可欠の一環であり、明白な参戦行為である。これは日本の軍事組織による戦後はじめての武力行使への参加であり、「武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する」という日本国憲法第9条をあからさまに蹂躙するものである。このことは、東アジア諸国との平和的信頼関係の強化に重大な障害をつくりださざるをえない。
 また法案には、次の点で憲法にかかわる重大な疑義がある。
1)法案では、自衛隊が活動できる地域に新たに「外国の領域」が加えられ、それは事実上無制限になった。自衛隊の活動は、戦闘地域と近接している国や地域、すなわち戦争の前線となることも想定される。そのような地域について「戦闘行為が行われることがない」という限定をつけても、そこでの自衛隊の活動は事実上戦闘行動と一体のものとならざるをえない。
2)武器使用の可能となる対象は、「自己の管理の下に入った者の生命・身体の防護」にまで拡大され、米軍などの傷病兵が含まれることで、武力行使との区別がなくなる。
3)国会の事前承認なく、事後報告のみとされていることで、内閣の判断で自衛隊の戦争参加実績作りがめざされている。
 さらに時限立法でない自衛隊法改正法案には次の疑義がある。
4)在日米軍・自衛隊の施設等に対する自衛隊部隊の警護出動および情報収集活動規定の新設は、治安出動要件を大幅に緩和するものであり、表現・集会の自由などの国民の基本的人権を不当に侵害するおそれが大きい。
5)警護出動および情報収集活動時の武器使用は、その使用要件、使用しうる武器の種類、対象地域が過度に広範かつ不明瞭であって、自衛隊の国内における武器使用を事実上無制約のものとする。
6)防衛秘密の漏えいに対して通常の秘密漏えいより格段に重い刑事罰を科すことは、軍事的価値をその他の文民的価値に優越させるものであり、日本国憲法の基本原理に反する。
 以上の理由から、わたしたちはこれらの法案に反対する。

3.<非武装平和主義にもとづく国際協力・貢献の切実性>
 わたしたちは、この事件が生み出された背景に、グローバル化のもとますます深刻化している貧困と社会格差、そこに生じる紛争にたいするアメリカを中心とした軍事的抑圧があることを指摘せざるをえない。かかる不公正と暴力の克服なしに、世界化したテロリストの土壌を根絶することはできない。
 日本国憲法は、「全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免れ、平和のうちに生存する権利を有することを確認」し、「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した」ことを宣言し、国際紛争解決手段としての戦争と武力による威嚇または武力行使を放棄し、戦力不保持と国の交戦権の否認を定めた。こうした軍事力によらない人間の平和保障の立場こそが、グローバル化した世界の中に存在するテロリストを究極的に根絶し、「平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去」していくうえで取られるべき立場であることは、世界政治の中でこれまでにもましてますます鮮明になっている。


10月24日現在の賛同者リスト


賛同者・賛同を検討している方へ(10月29日一部修正)


「市民と憲法研究者をむすぶ憲法問題Web」にもどる