禁断の極秘文書・日本放送労働組合 放送系列
『原点からの告発 ~番組制作白書'66~』29

メルマガ Vol.29 (2008.04.22)

第3章 人と機構

4 プロダクション・システム

B 合理化への道
 ――プロダクション・システムの構造――

(2)分業の進行――制作部・演出室
  ――下請けムードの危機――

 放送センターの5階、6階に行ってみると壁やロッカー、スチールの棚
に仕切られた小部屋が“蛸壺”よろしく並んでいる。

―― 蛸壺のような小部屋で仕事をしている160人の一人一人の仕事振りを部長、主管はつかまえられない。名前も知らず、担務も知らない状態では正当な評価は成立しえない。

 そこでタテマエとしては第一次考課者ではないCPに実質的考課の役割がまわってくるわけだが、事故が起こらないかに注目しているだけである。

 考課制度自体にも問題があるが、ここではそれすら満足に行われていない。消極的な意味での評価もこのように皆無に近い状態であるが、より問題なのは積極的な評価がなされていないことである。

 例えばある人の適性を見出し、その適性にあった仕事につけることがどうしてできるであろうか。しかもこの蛸壺的無評価状態は職制の巧妙な分割統治に利用されている危険性すらあるのである。(芸1)――

 このような職場における人間関係の疎外状況に対する不満と不安はさら
に機構上の欠陥についての批判を呼び、

―― 現行のプロダクション・システムは芸能局内における分業化の促進であり、制作業務の合理化を目的として組織された結果、全ての職場から制作意欲の減退を訴える声があがりつつある。

 とくに、演出、企画、制作と組織を3分化した欠陥がとくに制作部にあらわれてきていて、制作部員が自らの目標や理想を見失ってそれが沈滞ムードの大きな原因となっている。

 番組制作の過程を単純に分割してその運用上の細かい考慮が伴わないために、相互のセクト主義が微妙にあらわれてきている。(芸1)――

 それはそもそも発足の当初から曖昧だった演出室と制作部とのつながりに対して機構・人事上の欠陥を超えた創造意欲の頽廃にまで及ぶ問題として提起されている有様なのだ。

―― これまでの組織では徒弟制度の古さを持ちながら、先輩から後輩へ、ベテランから新人へ仕事のやりかたについてさまざまな伝授が行われていたのだが、今の組織にはそのような教育、養成の面が全然勘案されていない。だから例えば制作部に所属する演出アシスタントはいつになったら演出室に入ることができるのかといった不安が根深くあるのである。しかも現実には制作部の演出担当者と演出室との間には仕事の差異は全くないのだから、制作部と演出室との機構上のつながりはいっそう曖昧である。

 したがって演出アシスタントを含めて制作部の演出担当者は当然演出室に吸収されるべきとの声さえ起こっている。

 とくに現在の演出室が大部分ドラマの演出者によって構成されている現状に対してクイズや演芸、第2制作部からも非難の声があがっている。(芸1)――

 こうなってくると演出室の存在は本来どういう意義と役割を持ってくるのかという基本的なテーマにさかのぼって問題を再検討しなければならなくなってくる。

 芸能第3分会からは「やとわれ演出」と自嘲しながらまさに馬車馬のごとく次から次へ本数をこなしている演出者と年間僅か数本のノルマしか果たすことができずに髀肉の嘆をかこっている演出家との奇妙なコントラストが報告されている現状なのである。

 また芸能第1分会のデザイナーや効果の専門家たちからは彼らが第一制作部内に特別の班を構成してプール化されてはいるものの、専門職としての評価や養成の措置がきわめて不明確なまま放置されていることに激しい不満が吹き上がっている。チーフ・プロデューサー、チーフ・ディレクター、デザイナー、効果等の専門職化への道が依然としてプロダクション・システムの構想の中で位置づけられていないこの現実は1日も早く改革されなければならない。

―― 企画部で1年想をねったプロデューサーがその企画をひっさげ、その企画に適したディレクターを演出室からひっぱりだして両人揃って制作部でプロダクション・メンバーを募る。(芸1)――

 このようなイメージは単に人事交流を活発にしようというような性質のものではなく、プロダクション・システムの本来の在り方を指摘しているものとして検討されるべきものではなかろうか。

 この問題に関連して我々はさらにプロダクション・システムにおけるCPつまりチーフ・プロデューサーの在り方について芸能3分会の批判をとりあげてみることにしよう。

―― 上司の評価判断を信頼できるか?
  できない   9 
  あまりできない 23
  まあまあ 41
  できる 
  3 無回答 6   (芸2)――

 というアンケートの結果や、

―― ありふれた専門用語、番組制作のプロセス等でさえ知らないCPがいたり、自分の番組さえ良ければというセクト的なCPがいる。(芸1)――

などの批判はこれ以上さらに問題とするのもばかばかしい話であるからやめておくが、現在のCPの在り方で担当番組の制作責任を十分に負えるであろうかという問題については、プロダクション・システムのかなり大切なポイントなので分析をしておかなければならない。

―― 現在のCPはプロダクションのメンバーの時間外労働と番組予算の管理に負われている。

 また人事考課の上でも現実にはCPがその責任を負っている。しかも担当している番組が自分の企画したものでない場合が多いとなるとやはり従来の副部長業務と変らないのではないだろうか。だから現在のCPから行政的な仕事をはずして、本来の専門職としての番組制作業務(台本の作成、配役、演出上の問題等)に限定してその権限を明確にしてやるべきである。(芸1)――

 芸能局に限らず番組制作担当の下部職制が十分な権限をもたずに、いたずらに責任ばかりが過重であることは非常に問題であり、そのために下部職制が事なかれ主義に陥り、そのしわ寄せをさまざまな形で組合員が受けとめなければならない実態がある。

 したがって芸能局のCPたちが番組制作の責任をとるためにその権限をより強化できるような機構を準備しなければならないのである。しかしだからといってCPから労務管理や予算管理の責任を外してしまえということにはならない。むしろCPがそのような管理上の認識や能力・技術をもっと正確に身につけなければならない。

 とすると問題の本質は現在それぞれのプロダクションにあたえられている定員と業務量の欠陥やパターンに代表される劣悪な政策条件が存在することにあり、それらの改善が積極的に計られなければCPをしていつまでも現在の無責任な状況から解放することはできず、番組制作の体制を充実することも不可能なのである。

 また、芸能第1分会の討議の中から、それらの制作作管理業務を処理するデスク担当者をプロダクションに配置する必要性が強調されているが、この問題は現在の芸能局のプロダクション・システムにおける第1、第2制作部の部制の在り方とも関連してより深い検討を必要とするであろう。各プロダクションのCPはその担当する番組制作に関して組織的に芸能局長に対してダイレクトに責任と権限を持つべきであり、また企画、提案に関していえば制作部の全職員は企画部を通じてその権利を自由に発揮することが保証されなければならないのだから現在の部制はその両面で中2階的な障害でしかない。

 したがって現在両制作部の副部長および第1制作部の統括デスクが担当している各プロダクションの総合把握調整、計画管理、番組調整等の一切の業務はもっと一元化したスタッフ組織として検討されなければならないし、そのためには総務部の在り方との関連で共々に発展的に統合整理される余地が十分にあるであろう。

 このような機構上の問題については、将来のビジョンにまで深められた組織討議が未だ熟していないので、今後時間をかけて十分検討されなければならない。

 しかしプロダクション・システムの論議は決して機構いじりの興味から出発するものではない。既にきびしく問題とされてきている企画、提案や芸能番組プロパーの制作の在り方についての基本的な認識が明確にされる必要がある。

 この芸能局のプロダクション・システムに関する芸能の3分会のレポートは、教育局や報道局の仲間たちにも、それぞれの部門の制作機構の改善のためにさまざまな示唆をあたえるものであろう。

C プロダクション・システムの行方
  ――番組技術システムのつながり――

 7月中旬に開かれた本部経営協議会の席上放送系列執行部は既に芸能局の分会経協、局経協等において問題とされてきたプロダクション・システムのさまざまな欠陥について芸能局長にその見解をただしたところ、局長は

 「芸能局のプロダクション・システムは発足以来まだ1年余であるし、協会としても全く初めて取り組んでみた新しい体制なのでこれで十分なものだという確信は持っていない。いまだに色々な欠陥があることも事実である。しかし今後さらに改善に努めることによっていずれプロダクション・システムの本来の役割を発揮することは可能であるという自信をもっている。また従来の組織に較べて企画、制作の面ではるかにうまくいっているといえよう。」

 という意味の回答をしている。

 また経営情報室の総務は

 「番組技術システムの具体化に伴って予測される番組制作部門の機構改革はニューズ・センター構想との関連などでいまだ具体的なイメージとしてまとまってはいないが、芸能局のプロダクション・システムは当然検討されるであろう。」

 と発言している。

 既に我々が知り得た情報のかぎりでも、番組統括センターと称される巨大なスタッフ部門によって一切の放送番組の編成、企画、計画、管理などの機能が集中し、EDPSによって統制された制作条件によって番組群と制作群が番組制作業務を分担することになっている。

 この番組技術システムの構想の中で我々がもっとも注意・監視を必要とする基本的な問題点は

1.企画・提案のルートやシステムが経営要請に適応するかたちで統制され、現場職員の企画権が疎外される。

2.現行の部局組織は解消し、職員は番組群またはワーク・ユニットとしての制作群に分類され、PD、FD、SD等の区分によりプール化される。

3.番組制作条件はより合理化され、生産効率をより高めるために労働密度は増加する。

4.番組の評価はより視聴率本位に数量的に扱われ、そのため番組内容はパターン化し放送の質の低下をもたらす。

等であろう。

 これらの問題点は既に芸能の3分会のレポートが明らかにしているプロダクション・システムについての問題点とほとんど同質のものであることに我々は容易に気づくのである。

 そして本部経協における協会発言が芸能局におけるプロダクション・システムを番組技術システムにおける新しい機構の原型として扱っていることと考え合わせて、我々はこのプロダクション・システムを単に芸能局の問題として放置するのではなく、より広い組織的な関心で捉えていく必要があると考えるのである。